ブッカー賞にノミネートされたオーストラリア人の作家による小説です。 昔オーストラリアに、イギリスのコンヴィクト・囚人が送られてきていた、 つまりイギリスの植民地だったオーストラリアで 国を開拓する働き手としてイギリスのコンヴィクトが 島流しならぬ南の大陸流しになっていた歴史があるのは 皆さんご存知かと思います。 主人公のソーンヒルは、ロンドンで貧しい階級の出で、 窃盗の罪で死刑を免れるため、 1806年にオーストラリアへ送還されます。 日本はまだ江戸時代が終わる61年前で、 まだ鎖国が続いていた頃ですね。 面白いもので、江戸時代と言うと大昔のことに感じるのですが、 コンヴィクトがイギリスから送られてきた時代なら たかが200年前のことで、現在と繋がっている気がするのです。 数年囚人として働き、自由の身となったソーンヒルは ホークスブリー川沿いの土地を得て 家族と一緒に移り住みます。 そこで彼は、その土地には以前からの住民がいることに気がつくのです。 アボリジナルの人々です。 200年以上前に、オーストラリアをイギリスが植民地とし、 白人が移り住むようになった頃、 多くのアボリジナルが迫害、或は殺されたという話しは、 この国に住む者なら誰でも知っている話しです。 ソーンヒルは、囚人ではあっても悪人ではありません。 教養はなくとも、頭が悪いわけでもありません。 偏見はあるものの、近くでアボリジナルの生活を観察しているうちに 彼等に対する尊敬も生まれてくるのです。 それでもずっと貧しい暮らしをしてきたソーンヒルにとって 広大な土地の地主になることはどうしてもあきらめることのできない夢です。 事件は、色々な事柄が重なった上に起こります。 近くに住む白人のファーマーがアボリジナルの槍によって殺され、 (それは多分彼が毒を盛ったため多くのアボリジナルが死んだため) 苦労して育ててきたコーンがやっと実ったとたんに アボリジナルに盗られてしまい、 ソーンヒルの妻が、今すぐこの地を出て行くことを迫ります。 良心の葛藤がないわけではありませんが、 アボリジナルと戦うと決めた川沿いに住む、 今までバカにして嫌っていた白人達と一緒に ソーンヒルも戦うことになります。 10年後、その戦いとの引き換えに彼が得たもの、 そして失ったものが描かれ、物語は終わります。 作者のグレンヴィルさんは、彼女の祖先のことを調べているうちに 浮かんできた事実を元に この本を書くことになったそうです。 歴史上の事実として知ってはいても 心で体験することのなかったいくつものシーンが鮮やかでした。 青い山の麓に流れれている美しいネピアン川は、リッチモンドの方へ行くと ホークスブリー川と名前が変わるんです。 私は滅多に山を下らないのですが、 先週末、この本を読み終えた翌日に偶然 ネピアン川がホークスブリーと変わる拠点にある橋を渡ったのです。 なんとも不思議な気持ちがしましたよ。 あの川をしばらく下ったあたりに、 200年前に白人とアボリジナルの戦いがあったのですね。 銃を持つ白人との戦いですから、 一方的に迫害されたとも言えるのでしょう。 余談ですが、私がロンドンに住んでいた時のことです。 ある弁護士の男性と話しをしていると、 彼の奥さんがオーストラリア人であることがわかりました。 私もオーストラリアから来たというような話しをしていたのでしょうね。 ところが急に彼は、あわててこう言ったのです。 「あ、でも私の妻の祖先は役人でコンヴィクトではなかったよ。」 はぁ? そんなことは、オーストラリアに住んでいるオーストラリア人なら 言うこともなければ、普段は考えることもないことです。 階級制度というか、意識が強く残るイギリスですから 彼にとってそれは重大なポイントだったようです。 奥さんの祖先にもしコンヴィクトがいたとしたら 彼はどうしたのでしょう? 今では、イギリスよりも気候が良いということで 移住先として大人気のオーストラリアですが、 コンヴィクトの移住者、アボリジナルの迫害など、 歴史に残る暗い影がなくなることはないのでしょう。 さて気分を変えて、最後にマウントウィルソンで撮った写真をご覧下さい。 Uさんとジャンプ 気軽にコメントをしていって下さいね。 応援クリックよろしくお願いします。 ありがとう 愛してます ついている うれしい 楽しい 感謝します しあわせ ありがとう ゆるします 美味しい〜(by JJ) Be safe and have a good day!
by starofay
| 2012-04-12 09:27
| 読書
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Comments(10)
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Josh&Kai’sMum
at 2012-04-12 10:00
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昔だけじゃないよね、現在もいつの時代も差別や迫害がなくなることはない・・・・・・・のかなぁ(哀)
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John.John
at 2012-04-12 10:31
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at 2012-04-12 11:16
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
手に入れたものや失ったものを通して、他人や違う文化や習慣に広い心と優しい気持ちで対応できたらいい。同じ人間だもの・・世界はひとつだよって思えたらいいのにね。マウント ウィルソンの紅葉はこれからだ。真っ赤な扉の奥に続くまっすぐな道に惹かれます。アリスの国への入口かもって思ったらどんどん妄想が膨らむ^^。落ち葉のお布団被ったせーちゃんかわいい。あったかいんだよね~私もやったことあるよ・・子供の時にだよ、勿論!
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at 2012-04-12 13:20
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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coo
at 2012-04-12 18:28
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こんばんはぁ~。
知らなくても生きていけるけど、 知ると世界の見え方が変わったり、感じ方が変わったりしますよね。 かおりさんの解説はいつもとても分かりやすくてその世界に入り込むことができそうな錯覚におちいります。
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しょこら
at 2012-04-12 23:56
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祖先が役人かコンヴィクトか・・・
確かに、オーストラリアではそんなこと気にしてる人に 会ったことないよ。 今のオーストラリアがあるのは、彼らのおかげでもあるのにね。 この本読んでみたいからさがしてみる!!
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morinokochaorin at 2012-04-13 00:20
歴史って実は本当に身近に自分たちとつながっているんだよね。私が住んでいるところも、結構不思議だったりするのよ。仕事をしている場所も。自分は呼ばれたのか???って感じでね。
かおりちゃんの文章って好き。読みやすくって。
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starofay at 2012-04-13 07:57
わかさん、
マウントウィルソンには、見学ができる有料庭園がいくつかあるんですよ。でも村の中をうろうろ歩くだけでも充分きれいな所です。
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